2025 .07.15
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2011 .09.05
<東奔政走>野田新首相の「ドジョウの政治」 短命政権の連鎖を断ち切れるか
◇小菅洋人(こすげ・ひろと=毎日新聞編集編成局次長)
54歳の野田佳彦氏が第95代の首相になった。両親ともに農家の末っ子という庶民の出で、辻立ちを武器に徒手空拳で県議、国会議員になったことが売りだ。「ドジョウの政治」を標榜し、地道な説得により政治を前に動かす誠実さ、泥臭さを前面に出す。
政治主導、官僚排除の名の下に官僚と一杯飲むこともはばかられる空気のなかで、野田氏は官僚を集め居酒屋でわいわいやっていた。そのため財政健全化の主張と合わせて財務省の軍門に降ったとの批判がついて回ったが、本人は官僚もまた同志とみなした。保守色もにじみ出て、頭でっかちな民主党エリートとは趣を異にしている。
◇小沢元代表の傀儡色強すぎた海江田氏
断末魔の自民党政治に続き、民主党政権になっても政治は鳩山由紀夫内閣、菅直人内閣と混乱した。野田氏は党内の政争に疲れ切った議員に対して、政治に落ち着きを取り戻しうるような安心感を与えたのかもしれない。若手のエースだった安倍晋三氏の内閣が崩壊し、その後で地味ながら官房長官として手腕を発揮した福田康夫首相が登場したのとやや似ているかもしれない。
野田氏は前原誠司前外相の側近の情報を収集しながら、同氏が代表選に出馬しないと踏んでいち早く手を挙げた。ところが、意外にも世論調査の支持率が高い前原氏が立候補してしまった。前原氏サイドには、増税に言及し財務省寄りと批判される野田氏では代表選に勝てないという危機感もあったようだ。
野田グループ内には当選の見込みはないと前原氏一本化を模索する動きもあった。
野田氏には代表選出馬の判断で、同志の離反を生んだ苦い過去もあった。決意は変わらず代表選でも、復興財源問題では「歳出削減をしたうえで、時限的な税制措置をとらざるをえない」と候補者のなかで唯一、国民に苦いクスリを与えようとした。
一方、海江田万里氏の敗因は、小沢一郎元代表の傀儡色が強くにじみ出てしまい、党内に警戒感が広がったことにある。「海江田首相」ではあまりにもリスクが大きいと多くの議員が感じ、支持が広がらなかった。
海江田氏は1回目の投票で143票を獲得したものの、2位の野田氏は100票の大台に乗せた。野田グループの基礎票は30票程度で、党内の浮動票も取り込んだ大健闘だった。当初は出ないとみられた前原氏の出馬のいきさつから、野田氏との間にしこりもあったようだが、かといって前原氏の支持者が海江田氏に投票することは考えにくい。2、3位連合は十分に成り立ち、多くの政界関係者は1回目の投票結果をみて野田氏勝利を確信した。
海江田氏は旧社会党系の赤松広隆氏のグループから推された。さらに鳩山グループの支持を取り付けた。これに党内最大の小沢グループが乗った構図だ。
わずか数日間の選挙戦だったが、海江田氏はここまで小沢元代表にすり寄らなければいけないのかという印象を与えてしまった。同氏はまず元代表の党員資格停止を解除する問題であやふやな態度をとった。日本記者クラブの会見では「小沢さんを慕う人もいるので力を借りるのは当然」「この国の今の状況を克服するためには小沢さんの力がどうしても必要」などと述べ、幹事長起用の可能性を否定しなかった。
海江田氏と小沢元代表との間で党員資格停止解除問題でどういうやりとりがあったか、元代表が要求したのか、それとも海江田氏が勝手に配慮したのかは分からない。しかし、元代表が海江田氏を勝たせたいのなら「資格停止の話は触れないでいい」とアドバイスするべきだ。何のきっかけもない状況下での解除はあまりにも無理筋で、海江田氏のごますりぶりをことさらクローズアップしてしまった。
さらに環太平洋パートナーシップ協定(TPP)では「これまで必要性を感じていたが代表選をきっかけに慎重に対応する」と慎重姿勢に転じた。反対論者が多い小沢グループへの配慮にほかならないだろう。
決定的な発言は、子ども手当の見直しなど3党合意を白紙に戻す可能性に言及したことだ。ここで白紙に戻したら野党から第3次補正予算への協力は得られず、東日本大震災の復興は暗礁に乗り上げる。3党合意によって野党は特例公債法案に賛成しただけに、だまし打ちにほかならない。多くの議員が海江田氏に危うさを感じた。
◇前原氏による早期解散に警戒
委員会で辞める時期を追及されて泣いてしまったことも、ひ弱さを喧伝することになり、イメージダウンにつながった。最近では男もよく泣くと言われるが、これまで国会の追及で大臣が泣いた例はあまり知らない。その印象を引きずったため、演説や質問への受け答えが自信なさげに映ってしまった。
前原氏は第1回目の投票で野田氏に負けた。野田氏には同情票も回っただろうが、外国人献金問題を抱える前原氏には野党の攻撃にさらされるというリスクがあった。
さらに任期満了を望む議員たちにとっては、「選挙の顔」になる前原人気よりも、同氏が首相になることによる早期解散論に対する警戒感が広がったようだ。前原氏サイドには今回は同氏を温存し、来秋の代表選で本格政権を作るというシナリオもあったが、思い上がりであったことに気がついただろう。
野田氏は挙党態勢を固め、党内と野党から挟撃された前政権の二の舞いは避けなければならない。幹事長に小沢元代表に近い輿石東参院議員会長、国対委員長に鳩山氏側近の平野博文元官房長官を起用した。党内融和を強く意識した人事だ。野田政権の道のりは険しく、代表選で約束した復興増税問題に結論を出さなければならない。増税については盟友の前原氏も慎重姿勢で、党内の反発は強い。円高に苦しむ厳しい景気状況のなかで、増税は純粋な政策論としてもリスクを伴う。
政府与党案では「税と社会保障の一体改革」で2010年代半ばまでに消費税を10%まで引き上げることが明記され、そのためには11年度中に法案を提出しなければならない。歴史に名を残せるのか、来秋の代表選までの「つなぎ首相」になり下がってしまうのか。安倍首相から5代、短命政権が続いた負の連鎖を断ち切ってほしい。
(この記事は政治(週刊エコノミスト)から引用させて頂きました)
◇小菅洋人(こすげ・ひろと=毎日新聞編集編成局次長)
54歳の野田佳彦氏が第95代の首相になった。両親ともに農家の末っ子という庶民の出で、辻立ちを武器に徒手空拳で県議、国会議員になったことが売りだ。「ドジョウの政治」を標榜し、地道な説得により政治を前に動かす誠実さ、泥臭さを前面に出す。
政治主導、官僚排除の名の下に官僚と一杯飲むこともはばかられる空気のなかで、野田氏は官僚を集め居酒屋でわいわいやっていた。そのため財政健全化の主張と合わせて財務省の軍門に降ったとの批判がついて回ったが、本人は官僚もまた同志とみなした。保守色もにじみ出て、頭でっかちな民主党エリートとは趣を異にしている。
◇小沢元代表の傀儡色強すぎた海江田氏
断末魔の自民党政治に続き、民主党政権になっても政治は鳩山由紀夫内閣、菅直人内閣と混乱した。野田氏は党内の政争に疲れ切った議員に対して、政治に落ち着きを取り戻しうるような安心感を与えたのかもしれない。若手のエースだった安倍晋三氏の内閣が崩壊し、その後で地味ながら官房長官として手腕を発揮した福田康夫首相が登場したのとやや似ているかもしれない。
野田氏は前原誠司前外相の側近の情報を収集しながら、同氏が代表選に出馬しないと踏んでいち早く手を挙げた。ところが、意外にも世論調査の支持率が高い前原氏が立候補してしまった。前原氏サイドには、増税に言及し財務省寄りと批判される野田氏では代表選に勝てないという危機感もあったようだ。
野田グループ内には当選の見込みはないと前原氏一本化を模索する動きもあった。
野田氏には代表選出馬の判断で、同志の離反を生んだ苦い過去もあった。決意は変わらず代表選でも、復興財源問題では「歳出削減をしたうえで、時限的な税制措置をとらざるをえない」と候補者のなかで唯一、国民に苦いクスリを与えようとした。
一方、海江田万里氏の敗因は、小沢一郎元代表の傀儡色が強くにじみ出てしまい、党内に警戒感が広がったことにある。「海江田首相」ではあまりにもリスクが大きいと多くの議員が感じ、支持が広がらなかった。
海江田氏は1回目の投票で143票を獲得したものの、2位の野田氏は100票の大台に乗せた。野田グループの基礎票は30票程度で、党内の浮動票も取り込んだ大健闘だった。当初は出ないとみられた前原氏の出馬のいきさつから、野田氏との間にしこりもあったようだが、かといって前原氏の支持者が海江田氏に投票することは考えにくい。2、3位連合は十分に成り立ち、多くの政界関係者は1回目の投票結果をみて野田氏勝利を確信した。
海江田氏は旧社会党系の赤松広隆氏のグループから推された。さらに鳩山グループの支持を取り付けた。これに党内最大の小沢グループが乗った構図だ。
わずか数日間の選挙戦だったが、海江田氏はここまで小沢元代表にすり寄らなければいけないのかという印象を与えてしまった。同氏はまず元代表の党員資格停止を解除する問題であやふやな態度をとった。日本記者クラブの会見では「小沢さんを慕う人もいるので力を借りるのは当然」「この国の今の状況を克服するためには小沢さんの力がどうしても必要」などと述べ、幹事長起用の可能性を否定しなかった。
海江田氏と小沢元代表との間で党員資格停止解除問題でどういうやりとりがあったか、元代表が要求したのか、それとも海江田氏が勝手に配慮したのかは分からない。しかし、元代表が海江田氏を勝たせたいのなら「資格停止の話は触れないでいい」とアドバイスするべきだ。何のきっかけもない状況下での解除はあまりにも無理筋で、海江田氏のごますりぶりをことさらクローズアップしてしまった。
さらに環太平洋パートナーシップ協定(TPP)では「これまで必要性を感じていたが代表選をきっかけに慎重に対応する」と慎重姿勢に転じた。反対論者が多い小沢グループへの配慮にほかならないだろう。
決定的な発言は、子ども手当の見直しなど3党合意を白紙に戻す可能性に言及したことだ。ここで白紙に戻したら野党から第3次補正予算への協力は得られず、東日本大震災の復興は暗礁に乗り上げる。3党合意によって野党は特例公債法案に賛成しただけに、だまし打ちにほかならない。多くの議員が海江田氏に危うさを感じた。
◇前原氏による早期解散に警戒
委員会で辞める時期を追及されて泣いてしまったことも、ひ弱さを喧伝することになり、イメージダウンにつながった。最近では男もよく泣くと言われるが、これまで国会の追及で大臣が泣いた例はあまり知らない。その印象を引きずったため、演説や質問への受け答えが自信なさげに映ってしまった。
前原氏は第1回目の投票で野田氏に負けた。野田氏には同情票も回っただろうが、外国人献金問題を抱える前原氏には野党の攻撃にさらされるというリスクがあった。
さらに任期満了を望む議員たちにとっては、「選挙の顔」になる前原人気よりも、同氏が首相になることによる早期解散論に対する警戒感が広がったようだ。前原氏サイドには今回は同氏を温存し、来秋の代表選で本格政権を作るというシナリオもあったが、思い上がりであったことに気がついただろう。
野田氏は挙党態勢を固め、党内と野党から挟撃された前政権の二の舞いは避けなければならない。幹事長に小沢元代表に近い輿石東参院議員会長、国対委員長に鳩山氏側近の平野博文元官房長官を起用した。党内融和を強く意識した人事だ。野田政権の道のりは険しく、代表選で約束した復興増税問題に結論を出さなければならない。増税については盟友の前原氏も慎重姿勢で、党内の反発は強い。円高に苦しむ厳しい景気状況のなかで、増税は純粋な政策論としてもリスクを伴う。
政府与党案では「税と社会保障の一体改革」で2010年代半ばまでに消費税を10%まで引き上げることが明記され、そのためには11年度中に法案を提出しなければならない。歴史に名を残せるのか、来秋の代表選までの「つなぎ首相」になり下がってしまうのか。安倍首相から5代、短命政権が続いた負の連鎖を断ち切ってほしい。
(この記事は政治(週刊エコノミスト)から引用させて頂きました)
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