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2025 .07.08
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坂の上には「次の坂」があるだけではないのか?3/3 from 911/USAレポート/冷泉彰彦



→続き



 思えば、2011年に噴出したオリンパスや大王製紙の事件、いまだに国際会計基準の意義が理解されない状況といった問題は、日本社会が「成文法」や「形式的なコンプライアンス」には敏感であるにも関わらず、その上位概念である「常識」や「原理原則」「価値観」の一貫性という点では未成熟かつ未統合な社会であることを示しているように思います。こうした問題に対することは、ポスト産業化の社会へ進むこととパラレルに考えるべきであり、正に教育から社会制度、ジャーナリズムなど広範な分野における成熟が要求されているように思います。



 第二は、少子化の克服です。女性の社会的な権利を徹底的に向上させることがまず政策として必要です。更に、前提としてのカルチャーの問題として「子として育てられた経験から親になることが自然に受け入れられる」こと、「一人目の子を産み育てた経験の幸福感から自然に第二子以降を切望する」こと、「子のない人も含めて、社会全体として次世代を育成する喜びに触れる」ことといった、社会が世代の再生産を行えるような精神的ファンダメンタルズの再建が必要となると思います。言い換えれば、健全な自己肯定感の回復ということです。



 三点目は、軍事外交です。東アジアというのは、世界のGDPの大きなシェアを占めているにも関わらず、公選された正統性を持たない統治が行われ、汚職や自然破壊など行政の誤りを正してゆくジャーナリズムも禁止された異様な政体が大小2つ存在している地域です。しかも、その両国は自発的に開かれた社会を目指す気配はないまま、周辺国との軍事的な対峙を続けています。



 問題は特に中国であり、この巨大な社会が内部的な混乱も、対外的な暴発もせずに、開かれた安定成長の社会へと「ソフトランディング」してゆくことができるか、日本の経済的な安定も、軍事外交上の安全もこの一点に大きく左右されて行くと思われます。では、中国が「ソフトランディング」するために、日本はどんなスタンスを取ればいいのでしょうか?それは、共存共栄の経済関係を拡大しつつ抑止力のバランスを守る中で、ゆっくりと穏やかにしかし一貫した形で「オープンな社会の優位性」というメッセージを出し続けることだと思います。



 メッセージは強すぎてはなりません。強すぎるメッセージはコンフリクトの回転エネルギーを増すだけで、結果的に互いをダークサイドに押しやる危険があります。弱すぎても同じ危険があるのです。中国を成熟させることができるかどうかは、日本とアメリカがいかに成熟した対応を堅持するかに相当な部分はかかっています。



 年の瀬を迎えたアメリカでは、楽観論が社会を支配しています。過去三年間ロクなことがなかったのだから、2012年は良い年になるだろう、そんな循環的な発想で楽観論に行けるというのは、やはり恵まれた社会なのでしょう。逆を言えば、アメリカは本質的な自己変革を必要としていないし、そのつもりもないようです。膨大な若年人口を抱えた若さというのが、その背景にあることを思うと、仕方がないことだとも言えます。良く言えばまだ「若い国」なのです。



 思えばオバマのスローガンであった「チェンジ」というのは、理念的なものだとしても「アメリカが本来のアメリカに戻るべき」とか「アメリカは、よりアメリカであるべき」という「原点回帰」のメッセージであり、アメリカがアメリカであることから変わってゆくなどという発想はゼロだと思うのです。



 そんなアメリカから見ていると、1905年の「坂の上」のドラマや、同じように変革期を迎えて動揺する現在の日本は、全く別の世界のように思えてなりません。1905年の日本も、2012年の日本も、日本が日本でなくなるような方向転換が求められており、そうでなくては生存できない、それほどの変革期に直面しているのです。そこを「下降」へと逃げることなく、苦しみ抜いて「次の坂」に静かに歩みを進める、そうした時期なのだと思います。



(※注)この問題に関しては、サントリー学芸賞を受賞した瀧井一博氏の『伊藤博文~知の政治家』(中公新書)が興味深い学説を提出しています。晩年の伊藤は、一度は韓国の併合に反対しつつ韓国に近代化を自ら進めるよう説き続け、それが失敗したことで併合案の追認にポジションを移動させたというのです。



【JMM】from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦(作家:米国在住)





(この記事は社会(村上龍 Japan Mail Media)から引用させて頂きました)









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