2025 .07.07
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2012 .02.02
ダルビッシュ会見にみる、“伝わる・伝わらない”の分水嶺
米メジャー球団テキサス・レンジャースへの移籍が決まったダルビッシュ有投手。先月、彼が日本ハムファイターズの本拠地札幌で会見をした映像を目にした読者は多いはず。筆者もテレビのスポーツニュースでこの会見に接し、思わず拍手を送った。ファンを大事に思うダルビッシュ投手の思いがストレートに伝わってきたからに他ならない。彼が会見で示した姿勢、実は日本の政治家に一番欠けている点でもあるのだ。
【拡大画像、ほか】
●真意が伝わらない会見
本題に入る前に、僭越(せんえつ)ながら拙著『フラグマン』(小学館/作画:中山昌亮氏)を紹介させていただく。
フラグマンとは、米国でカリスマ的な影響力を持っていた架空の日本人PRマンのストーリー。米国や欧州では、企業や政治家と契約し、それぞれのイメージ戦略や記者会見対応を請け負う広報対応専門の会社がある。本作の主人公もそうしたキャリアをもつ人物だ。
作中、日本の電機会社が登場するエピソードを創った。同社の製品が爆発、多数の消費者にケガ人が出た、との設定だ。
当該企業は、部品の不具合の経過説明や役所への説明の状況を記者会見で開示。この場面を見た主人公のフラグマンは、「こんな経過説明、やらない方がマシだ」と切ってすてる。さまざまなしがらみから、フラグマンはこの企業に緊急でアドバイスを与えることになるのだが、お詫び会見でのお辞儀の角度や、ネクタイの色を気にする広報担当者と社長を前にこう言い放つ。
『実際に怪我や火傷を負ったのは、お客さんなんです。謝罪は小手先じゃない。誤るべき人に真っ先に誤らない謝罪は、謝罪なんかじゃない』
このエピソードは、ある広報代理店が実際に顧客に対してレクチャーしている内容を参考にした。
お詫び会見で真っ先にやるべきなのは、被害者に対する謝罪。ミスやスキャンダルが発覚した際、企業幹部が会見で深々とお辞儀をするシーンが頻繁に現れるが、彼らの気持ちが伝わってこないのは、「世間を騒がせた」「社会に迷惑をかけた」との文言を繰り返すのみで、被害者に真っ先に誤るという視点が決定的に欠けているからなのだ。
ダルビッシュ投手の札幌での会見を、先に触れたフラグマンに当てはめてみる。共通するのは、当事者性だ。つまり、「誰に向けてメッセージを放つのか」というポイントなのだ。
彼が放ったメッセージの中で、キーとなるのは「ファン」という一言だ。
●ダルビッシュの真摯な気持ち
『ファンの方々の応援がないと、僕たちは全然、力を発揮できません。これだけ温かいファンがいるから、できているんだとずっと思っていますし、みんなも口にしています。ファンの方々が変わらず応援してくだされば、間違いなくいい成績を残せると思います』
これは札幌ドームでのダルビッシュ投手の発言の一部(読売新聞の記事から引用)。短いセンテンスの中に、『ファン』という言葉が3度も登場する。動画で確認するともっと分かりやすいのだが、彼は会見の間中、ずっとスタンドに集まったファンに視線を向けていた。
ダルビッシュ投手のメジャー移籍を巡っては、さまざまな憶測が乱れ飛び、かつプライベートの問題もあってメディアの関心が極めて高かったのは言うまでもない。このため、テキサスから戻ったばかりのダルビッシュ投手の一挙手一投足に注目が集まっていたわけだが、彼はブレることなく、「ファン」と向き合ったのだ。恐らく、広報のプロが助言したような事実はないはずだ。
筆者は実際に会見に足を運んでいない。また、彼の人となりも知らないが、スポーツニュースを通じて得た印象は、あくまでもファンにきちんと説明する、別れのあいさつを行う、プロのアスリートの真摯(しんし)さだった。
ダルビッシュ投手はマスコミに対してではなく、ファンに向けて明確なありがとうという気持ちを伝えただけなのだ。複数のテレビ番組でチェックしてみたが、彼の会見をスタンドで見守る人たちの中に、涙を流しているファンが少なくなかった。ファンに向き合っていた彼のメッセージがきちんと伝わった証左だ。
ここまで記すと、賢明な読者は既にお気付きだろう。
「全身全霊で」「命を賭す覚悟で」など、多くの政治家が国会や街頭演説で繰り出す言葉が、いかに空々しく、受け手に伝わらないか。
プロ野球ファンと選手、国民と政治家。単純に比較できないことは承知しているが、言葉やメッセージを発する側が、どれだけ相手のことを思い、気持ちを込めているかで、受け手の印象は全く異なるものになるのだ。
現在、永田町では国会の論戦が始まっている。選挙区を意識して、声高に主義主張をぶつける政治家が毎日ニュースで流れる。
政治家のセンセイ方、若きアスリートの会見を一度ご覧あれ。動画サイトでいくらでも視聴可能だ。なにが現在の政治家に欠けているかが明確に把握できるはずだ。
[相場英雄,Business Media 誠]
(この記事は産業(Business Media 誠)から引用させて頂きました)
米メジャー球団テキサス・レンジャースへの移籍が決まったダルビッシュ有投手。先月、彼が日本ハムファイターズの本拠地札幌で会見をした映像を目にした読者は多いはず。筆者もテレビのスポーツニュースでこの会見に接し、思わず拍手を送った。ファンを大事に思うダルビッシュ投手の思いがストレートに伝わってきたからに他ならない。彼が会見で示した姿勢、実は日本の政治家に一番欠けている点でもあるのだ。
【拡大画像、ほか】
●真意が伝わらない会見
本題に入る前に、僭越(せんえつ)ながら拙著『フラグマン』(小学館/作画:中山昌亮氏)を紹介させていただく。
フラグマンとは、米国でカリスマ的な影響力を持っていた架空の日本人PRマンのストーリー。米国や欧州では、企業や政治家と契約し、それぞれのイメージ戦略や記者会見対応を請け負う広報対応専門の会社がある。本作の主人公もそうしたキャリアをもつ人物だ。
作中、日本の電機会社が登場するエピソードを創った。同社の製品が爆発、多数の消費者にケガ人が出た、との設定だ。
当該企業は、部品の不具合の経過説明や役所への説明の状況を記者会見で開示。この場面を見た主人公のフラグマンは、「こんな経過説明、やらない方がマシだ」と切ってすてる。さまざまなしがらみから、フラグマンはこの企業に緊急でアドバイスを与えることになるのだが、お詫び会見でのお辞儀の角度や、ネクタイの色を気にする広報担当者と社長を前にこう言い放つ。
『実際に怪我や火傷を負ったのは、お客さんなんです。謝罪は小手先じゃない。誤るべき人に真っ先に誤らない謝罪は、謝罪なんかじゃない』
このエピソードは、ある広報代理店が実際に顧客に対してレクチャーしている内容を参考にした。
お詫び会見で真っ先にやるべきなのは、被害者に対する謝罪。ミスやスキャンダルが発覚した際、企業幹部が会見で深々とお辞儀をするシーンが頻繁に現れるが、彼らの気持ちが伝わってこないのは、「世間を騒がせた」「社会に迷惑をかけた」との文言を繰り返すのみで、被害者に真っ先に誤るという視点が決定的に欠けているからなのだ。
ダルビッシュ投手の札幌での会見を、先に触れたフラグマンに当てはめてみる。共通するのは、当事者性だ。つまり、「誰に向けてメッセージを放つのか」というポイントなのだ。
彼が放ったメッセージの中で、キーとなるのは「ファン」という一言だ。
●ダルビッシュの真摯な気持ち
『ファンの方々の応援がないと、僕たちは全然、力を発揮できません。これだけ温かいファンがいるから、できているんだとずっと思っていますし、みんなも口にしています。ファンの方々が変わらず応援してくだされば、間違いなくいい成績を残せると思います』
これは札幌ドームでのダルビッシュ投手の発言の一部(読売新聞の記事から引用)。短いセンテンスの中に、『ファン』という言葉が3度も登場する。動画で確認するともっと分かりやすいのだが、彼は会見の間中、ずっとスタンドに集まったファンに視線を向けていた。
ダルビッシュ投手のメジャー移籍を巡っては、さまざまな憶測が乱れ飛び、かつプライベートの問題もあってメディアの関心が極めて高かったのは言うまでもない。このため、テキサスから戻ったばかりのダルビッシュ投手の一挙手一投足に注目が集まっていたわけだが、彼はブレることなく、「ファン」と向き合ったのだ。恐らく、広報のプロが助言したような事実はないはずだ。
筆者は実際に会見に足を運んでいない。また、彼の人となりも知らないが、スポーツニュースを通じて得た印象は、あくまでもファンにきちんと説明する、別れのあいさつを行う、プロのアスリートの真摯(しんし)さだった。
ダルビッシュ投手はマスコミに対してではなく、ファンに向けて明確なありがとうという気持ちを伝えただけなのだ。複数のテレビ番組でチェックしてみたが、彼の会見をスタンドで見守る人たちの中に、涙を流しているファンが少なくなかった。ファンに向き合っていた彼のメッセージがきちんと伝わった証左だ。
ここまで記すと、賢明な読者は既にお気付きだろう。
「全身全霊で」「命を賭す覚悟で」など、多くの政治家が国会や街頭演説で繰り出す言葉が、いかに空々しく、受け手に伝わらないか。
プロ野球ファンと選手、国民と政治家。単純に比較できないことは承知しているが、言葉やメッセージを発する側が、どれだけ相手のことを思い、気持ちを込めているかで、受け手の印象は全く異なるものになるのだ。
現在、永田町では国会の論戦が始まっている。選挙区を意識して、声高に主義主張をぶつける政治家が毎日ニュースで流れる。
政治家のセンセイ方、若きアスリートの会見を一度ご覧あれ。動画サイトでいくらでも視聴可能だ。なにが現在の政治家に欠けているかが明確に把握できるはずだ。
[相場英雄,Business Media 誠]
(この記事は産業(Business Media 誠)から引用させて頂きました)
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